福留洋一さん/ふくどめ小牧場
福留洋一さん。カフェの裏にある洋一さんの牧場にて。現在は4頭の豚が放し飼いされています 大隅半島の山奥に「ふくどめ小牧場」はある。ドイツ語で「食べることは、幸せになれる」というTシャツを着て迎えてくれたのは、福留洋一さん。
ドイツから4年前に洋一さんが戻ってきて、豚の飼育を主とする牧場に、新たに加工・製造・販売・飲食店経営までできる場所をつくった。
「親父が鹿屋市獅子目町で豚を飼い始めて、小っちゃい頃から手伝っていました。
高校卒業する頃に親父と一緒にやろうと思い、加工販売の道に進もうと決意しました。
それからというもの、自分達が大切に育てた豚を、自分達で加工して100%使いたい。豚肉のロースやバラ、ヒレ以外の一般的には捨てられてしまう余る部位もすべて生かしたい、とずっと考えていました。飼育、加工・製造、販売は別の職業。日本で豚の加工・製造を行う会社の約8~9割は、豚を牧場から買取るのが一般的。ウチは育てるところから、精肉、販売、調理まで一貫して全部をやってます」
ふくどめ小牧場の中にある、新鮮な豚をいつでも食べられるカフェ 洋一さんは高校卒業後に群馬県の食肉学校で加工について学び、その後、イギリスに1年間の語学留学。その時、旅行でドイツに行き、Herrmannsdorf(ヘルスマンドルフ)というひとつの村に出会った。
加工品をつくるならトップクラスのドイツで勉強したいという思いがあった洋一さんは、この地に7年間勤め、マイスターの資格を取得している。(ドイツの国家資格)
「Herrmannsdorfとの出会いは宝。今もお互いの場で研修をしたりと仲良くやっている。Herrmannsdorfは、ミュンヘンの下の方にある小さな村で、今まで何もなかった広大な田舎の土地に、お肉屋さん、ハム・ソーセージ屋さん、チーズ屋さん、ビール屋さん、パン屋さん、レストランがひとつの古い建物に入っている場所があり、アパートも保育園もある。
そこらへんに野放しの牛がいて、豚がいて、鶏がいる。育てている野菜もすべて有機無農薬。あそこは豊かな生活があった。道端にはアート作品が建ち並び、一つの会社がやがて小さな村をつくってしまった場所なんです。田舎にも人を呼べるんだと思い、すごく勉強になった。
Herrmannsdorf(ヘルスマンドルフ)の全景(資料提供:福留洋一) 「自然にやさしい方法をとりたい」とすべてを昔に戻す訳ではないが、昔ながらの手作業と最新機器を上手く使う仕事の方法や、自分たちで見れる範囲で生き物を育て、大きい会社にしないことを学んだ。ドイツではすべてを自分たちでやり、年に1度イベントを行い、人々の前で屠殺を行う。肉の重さ。あったかさ。ありがたさを感じてもらうために。
豚業界は途中からおかしくなった。ハイブリッドな豚が品種改良されてつくられた。
成長が早く、子どもをたくさん産むことができる。豚に無理をさせている。昔に返ってゆっくり育ててちゃんと味を出してあげたい。
親父がもともと大量生産で豚を飼育する気がなかった。だから名前に“小牧場”とつけている。自分たちで面倒が見れなくなるのは嫌だから。
お肉を始めて3年目、販売が軌道に乗れば今より頭数を減らす予定」
洋一さんを見つけると近づいて行って甘える様子が可愛かった 「サドルバック」という品種の豚をご存知だろうか。
放牧に適した豚で脂身が多いのが特徴。生産性が低く、他の豚よりも育てるのに時間が必要な為、現在では世界的に希少種になりつつある。
日本では「ふくどめ小牧場」にしかいない品種。最近では日本全国からその貴重な品種を求めて多くの人が訪れる。
夜通し状態を確認しながら、できてきたハムをスライスして店頭に並べる 両親と兄は豚の飼育を担当し、洋一さんは加工と製造、妹はお店での販売をしている。
日本では自分の牧場で屠殺は出来ないが、やがてはHerrmannsdorfのように小さな村みたいにしていきたいと言う洋一さん。
駐車場だった場所をカフェスペースにリノベーション。ランチタイムは満席で、知る人ぞ知る人気店 ショーケースに丹精込めて作られたハム・ソーセージが並ぶ。もちろんお肉もあります 人気商品のバケットのサンドウィッチとフォカッチャのサンドウィッチ 「ここは近くに何もない田舎。ここにしか用事がない人が来るのですごく嬉しい」
と最後に言っていた。言うまでもないが、生ハム、ソーセージ、レバーペーストといった加工肉をはじめ、どれを食べても美味い。買って帰ることももちろんOKですが、店の前の芝生に座ってほおばるサンドイッチは最高だ。