きりん商店 杉川明寛・真弓さん夫婦
豊かな自然の中にある「きりん商店」。築100年以上の古民家を改築 2014年6月1日、古くからの湯治場が並ぶ霧島の山道に気になるお店がオープンした。霧島のお茶を中心とした特産品を扱うセレクト物産店「きりん商店」だ。
それまでは霧島といえば、山登りやアユ釣りなど大自然の中で遊び、温泉に入って帰る場所だった。きりん商店のオープンによって、そこで買い物を楽しんだり、お茶を飲んでくつろぐ新たな楽しみが加わった。
運営しているのは元々福岡でグラフィックデザイナーをされていた杉川明寛さん・真弓さんご夫婦。なぜお店をオープンすることになったのか。霧島という土地を選んだのか。お話を伺った。
きりん商店の「き」。お店のトレードマーク 杉川明寛さん・真弓さん。お店の前で 霧島の製茶工場で生まれ育った真弓さん。家業の手伝いで早朝から夜遅くまで働く兄三人を見ながら育った。外の世界に憧れ、福岡で見た広告の世界にすごい! と感動し、地元を離れ福岡でデザイン業に携わる。結婚して子どもに恵まれ何年か生活するうちに、いつしか故郷への想いが膨らんできた。
「父を事故で亡くしたり、おばあちゃんが体を壊したりして、家族のそばにいたかった。自分が生まれ育った自然が恋しい気持ちも大きくなってきました。子どもたちも、盆・正月で霧島に連れていく度に大喜びで川や森を駆け回っていて。これからの子育てのこと、自分たちのこと。いろいろ考えました」
原木栽培の椎茸を、お店の入り口に並べて販売 「僕は霧島でデザインをするのは難しいと思っていました。でもある日フッと田舎の方がいいなという気持ちが浮かび上がってきました。嫁さんと一緒に霧島へ帰ったりするうちに思い入れも深まっていきました」
そして移住した霧島。一度離れて戻ったことで、身近すぎて知ろうとしなかった霧島の素晴らしさに改めて気づくことができた。実家のお茶は世界的にも珍しい有機栽培の煎茶や抹茶。味も抜群! 海外からバイヤーが来るほどだ。また味噌、めんつゆ、みそだれなどを朝早くから手づくりしている近所の地元生産者グループのおばちゃんたちにも出会った。
「販売所では包装のデザインもPOPもなく、ただ商品がポンと置いてあるだけ。地元の知っている人だけが買う。知らない人にはなかなか手に取ってもらえる機会のない商品。だけど、食べるとすっごく美味しい! もったいない。おばちゃんたちにも自信を持ってほしい。何ができるだろうか。自分たちにはデザインという伝えるすべがある。霧島でできることはいっぱいある!」
真弓さんの実家・西製茶工場のお茶。パッケージは明寛さんがデザインした そして、きりん商店のかたちが見えてきた。霧島の魅力的な商品を伝えるセレクト物産店をやろう。パッケージは自分たちの手で。商品の魅力ができるだけ伝えられる店。徹底的にお客様に喜んでもらえて、地元に貢献できるように。未知数の可能性にワクワクした。
写真中央、瓶に入っているのが地元生産者グループのおばあちゃんたちの「みそだれ」。パッケージのデザインは真弓さん。今はリピート率No.1の商品に! 自分たちの手でデザインしたものをお店で販売し買ってもらうことによって、受け手の反応が手応えを持ってわかるようになった。
「福岡で仕事をしていた頃はデザインをつくって納品してそこで終わりでした。けれども、目の前で売れていく様子を見ると、お客さんの反応がダイレクトにわかるんです。売れていない商品があれば、そのパッケージを毎週変えて反応を見たりとか」
店内にある火鉢で自由に何を炙ってもよい。この日は入り口で販売していた椎茸にマヨネーズをつけて焼いているお客さんが お茶を囲むうちにお客さん同士の交流が始まる。観光客も、地元の人も集う店 「お茶を飲んでいかれませんか?」
訪れると、いつも飾らない雰囲気で迎えてくれるきりん商店。その気さくな様子からは伺い知れないほど、どう提案するかに対するストイックなまでの姿勢があることを知った。
「今の私たちにとっては、このきりん商店というスタイルが霧島と関わるベストなかたちだと思っています。これからもっと霧島を面白くしていきたい。なにしろ魅力的な素材がいっぱい眠っている土地。やりたいことは沢山で尽きないですね!」